要注意!内定辞退や内定取り消しは,法律的にNGになるかも!?


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新年度も近づくこの季節、学生にとって、これを機に新社会人としての強い自覚を持つと共に、あと数ヶ月しか残っていない学生時代をどのように過ごすか、不安で一杯な時期なのではないでしょうか。
内定を出す会社にとっても、このような学生の悩みを理解しながらも、法的なトラブルが生じないよう、細心の注意を払っていかなければなりません。

そのためには、内定に関する労働法についての正確な知識が必須となります。
特に、昨今では、内定を出した学生に対して、他の会社への就職活動を終了・中止するように強要する「オワハラ」が社会的に問題となりましたから、社会の関心も非常に高く、軽率なミスでトラブルを招けば、会社の信頼を失墜させることにもなりかねません。

今回は、実際にいただいた内定に関する質問を題材として、内定に関する法律問題について、労働問題を得意とする弁護士の視点からお答えいたします。

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そもそも、内定の法律関係とは?

内定承諾書、誓約書などの法的な効果は?

「内定」は、専門的にいうと、「始期付解約権留保付労働契約」という特殊な労働契約であると考えられています。これは、簡単に説明すると、次の3つのことを同時に意味しているという言葉です。

「始期付解約権留保付労働契約」
☞ この労働契約は、「内定」の時点から成立します。
☞ この労働契約にしたがって労働を開始するのは、入社日になって以降のことです。
☞ この労働契約が成立してから、入社日になるまでの間、会社側にはこの労働契約を解約する権利があります(いわゆる「内定取り消し」が一定程度許されています。)。

つまり、内定期間中の会社と学生との間では、労働契約は成立しているものの、入社日までは会社の指示にしたがって働く必要はなく、入社日までに内定取り消し事由が発生した場合には内定が取り消されるという関係にあります。

このように、「内定」は、労働関係が成立したことを意味するのですから、会社からの一方的な意思表示では足りず、学生の側からも、承諾の意思表示が必要となります。
このうち、会社からの意思表示となるのが、いわゆる「内定通知書」であり、学生からの承諾の意思表示となるのが、いわゆる「内定承諾書」「誓約書」といったものになります。したがって、これらが揃って、「内定」という法律関係が成立することとなります。

内定によって変わる労使の力関係

「内定」が成立する以前は、採用活動の段階になりますから、どのような学生を採用するかは、あくまでも会社が自由に決めてよいこととなっております。その一方で、内定」が成立した後は、労働契約が成立したということになりますから、その取り消しは一定程度制限されることとなります。
したがって、会社としては、「内定」を出す前に、十分な検討を行わなければなりません。

質問「内定式の後に、学生の側から内定を辞退することができますか?」

 いわゆる「内定辞退」をすることができるか、行った場合にどのような責任があるかという質問です。
 「1」で説明したとおり、「内定」は労働契約ですから、労働契約の解約に関する一般論があてはまることとなります。そうしますと、学生の側からの「内定辞退」は、2週間前に通知すれば、いつでも可能ということとなります(民法627条1項。ちなみに、月給制の場合には、月の前半に申し出ればその月の末、月の後半に申し出ればその翌月の末に退職となります。)。
 したがって、内定式の後、入社日までに「内定辞退」をしたい場合には、入社日の2週間前までに会社に対して通知をすればよいこととなります。
 ただし、あまりにも直前の「内定辞退」となると、すでに入社の準備をしてしまっている可能性もありますし、「内定」後の研修などで、会社のノウハウを知ってしまっている場合もあります。このような場合には、あまりに会社の側に迷惑をかける時期に「内定辞退」をした場合には、会社に生じた損害を賠償しなければならない場合もあります。

質問「内定式の後に、会社の側から内定を取り消すことができますか?」

いわゆる「内定取り消し」が許されるか否かという質問です。
「内定取り消し」の理由として認められているのは、内定者に関する事項で、採用内定段階では、会社が十分に知ることができなかった事項であるとされ、これを理由とした「内定取り消し」が合理的であると認められるものでなければならないとされています。これは、「内定」が労働契約の開始であり、「内定」の時点では調査ができなかったような事項に限って取り消しを認めるべきであるということを意味しています。
「内定取り消し」の理由として認められている典型的な例は、以下のようなものです。

☞ 採用内定者が学校を無事に卒業できなかった。
☞ 採用内定者が会社に伝えていた経歴に、重大な嘘があった。
☞ 採用内定者が重大な刑事事件を起こして逮捕された。

逆にいえば、採用段階でもわかるような、能力の不足、やる気の欠如といった理由では、「内定取り消し」はできないこととなります。

では、「内定取り消し」が、時期的にどの段階まで認められるかについてですが、これは、「内定取り消し」が合理的かどうか、を判断する材料となりますので、「内定取り消し」の理由とのバランスで考えることとなります。その「内定取り消し」の理由が、さきほど列挙したような非常に重大な事実であれば、入社直前の「内定取り消し」もやむを得ないのではないでしょうか。

オワハラの問題について

昨今では、内定を出した学生に対して、他の会社への就職活動を終了・中止するように強要する「オワハラ」が社会的に問題となりました。
「2」で説明したとおり、学生の側から内定を辞退することは可能ですから、「内定」が成立した後も学生が就職活動を継続することについて、会社としてはこれを終了・中止するように強要することはできないのが原則です。
他方で、「内定」から入社日の間に、さまざまな行事を設定したり、一定の作業を行わせたりする会社がありますが、これらは、学生の本分である学業に支障をきたさないのであれば、レポートの提出、歓迎会への参加などを行うことは可能です。ただし、あくまでも学業が最優先であるということに、十分に配慮しなければなりません。また、どうしても学生が参加を拒否するという場合には、学生の同意をとった上で、なおかつ給与を支払わない限りは、業務命令として強制的に従わせることには、問題があるものと考えます。

まとめ

このように、「内定」を出す、「内定」を受けるということは、会社にとっても労働者にとっても非常に重要な意味のある行為であるといえます。
したがって、ひとたび「内定」という状態になった後で、この状態を解消しようとすれば、大きなリスクを負うことにもなりかねません。

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