名誉毀損の裁判事例、まとめてみました28ケース


名誉棄損

「名誉毀損」という言葉は社会に広く浸透しておりますが、裁判で「名誉毀損」として多額の損害賠償が認められることはごく限定的ともいえます。

権利意識の高まった現代において、少しでも相手の気に食わないことを言えば「名誉棄損だ!」などとクレームを言われる一方で、インターネットが浸透し、誰でも気軽に、公の場で人の悪口を発表できるようになり、いざ名誉棄損が深刻化した場合には、損害の拡大は著しくスピーディになりかねません。

そこでどんなことが「名誉毀損」として認められているのか、判例を基礎にまとめてみました。

単なる「悪口」「クレーム」と、裁判例、判例において損害賠償請求の対象となる「名誉棄損」との境目について、解説していきます。

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このページの目次

名誉棄損とは?

名誉棄損は、民事事件、刑事事件の双方で問題となります。民事事件では、損害賠償請求や差止などが問題となり、刑事事件では刑事罰を科すかどうかが問題となります。

名誉棄損とは、「公然と事実を摘示して、人の社会的評価を低下させること」であると定義されます。こちらの定義は、民事、刑事共通となります。

名誉棄損罪とは?

刑事事件における「名誉棄損」すなわち名誉棄損罪とは、刑法で次のように定められています。

刑法230条1項
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

ただし、以下の場合には免責されています。

☛ 公共の利害に関する事実にかかわるものであること
☛ 専ら公益を図る目的があること
☛ 真実であると証明されるか、真実であると信ずるについて相当の理由があること

また、名誉棄損罪の公訴時効は3年間で、名誉棄損罪の告訴期間は、犯人を知った日から6か月以内に限定されています。

名誉毀損の被害パターン

名誉棄損は、さまざまな表現手法で成立しますので、裁判でも多くのケースがあります。たとえば、次のようなものです。

出版(雑誌・小説)、新聞、テレビ放映、インターネット動画配信、ビラ配布、広報物(会報・ミニコミ)、文書、記者会見、発言(議会、法廷)、インターネット上での書き込み(個人ブログ、匿名掲示板)、制裁、契約上のトラブル、活動(反対運動・街宣活動)

どのような表現態様であったとしても名誉棄損となりうるので、注意が必要です。

名誉棄損の民事事件ケース

名誉棄損が民事事件となるケースとしては、損害賠償を請求するもの、名誉棄損である出版物などの差止を請求するものの2つのパターン(とその双方)があります。

名誉棄損が認められたケース、認められなかったケースについて、裁判例をまとめました。

名誉棄損が認められなかったケース

週刊誌・雑誌

少年時代の犯罪歴を掲載した文藝春秋(平成15年)

第一審では「仮名でも本人を推知することができる」として30万円の請求を認めたが、文芸春秋側は控訴、控訴審では原判決を破棄差戻し、上告審の判決では請求が棄却され、名誉棄損は認められませんでした。

「ウソつき常習男」とよばれた国会議員(平成15年)

新潮社が広告に使用した表現に対し国会議員が訴え、第一審では100万円の請求を認めましたが、新潮社が控訴、「表現の仕方が意見・論評の域を出ない」とし、請求を棄却し、名誉棄損とは認められませんでした。

「バカ市長」とよばれた弁護士市長(平成19年)

週刊新潮の記事に対し市長が訴えましたが、「記事や見出しが意見・論評の域を出ない」とし請求を棄却し、名誉棄損とは認められませんでした。

「セクハラ発言」と書かれた内閣官房長官(平成24年)

週刊文春と週刊新潮に、「官邸での懇親会で女性記者に自身の男性機能をあからさまな表現で発言した」ことをセクハラ発言として掲載。裁判所は「発言が10名のグループに向けられても、その中にいる女性に対するセクハラにあたると問題視されてもやむを得ない」として、内閣官房長官の訴えを退け、名誉棄損とは認められませんでした。

「信用格下げ」と書かれた大手都市銀行(平成15年)

月刊現代にて「投資不的確の水準まで格下げになり資金調達が不可能」と掲載されました。
裁判所は「記事が許容される論評である」とし、請求を棄却し、名誉棄損とは認められませんでした。

ミニコミ・立て看板

「地盤が危険」と近隣住民に書かれた建設会社(平成15年)

マンション建設の反対運動側の嫌がらせに対して、名誉毀損であるとして損害賠償請求と差止を求めた裁判ですが、「社会的評価を低下されるものではない」として棄却され、名誉棄損とは認められませんでした。

インターネット

掲示板書き込みをされた医学部受験予備校(平成16年)

掲示板管理者は常時監視すべき義務はなく、書き込みも通常の批判、意見の域をでないとされ、棄却され、名誉棄損とは認められませんでした。

名誉棄損で損害賠償が認められたケース

週刊誌・雑誌

「石器捏造」被害者遺族に600万円(平成15年)

週刊文春が、発掘した石器に疑惑があると掲載したことによって、調査責任者が自殺、遺族が慰謝料請求をした裁判で、名誉棄損を理由に損害賠償が認められました。

「ソープランド買収」上場企業に100万円、同社社長に500万円(平成15年)

雑誌「週刊新潮」にて、株価操作の疑いがあるとの事実を掲載、また雑誌「FOCUS」にて、原告のファミリー企業がソープランドを買収したという噂を掲載し、新潮社が訴えられた裁判で、名誉棄損を理由に損害賠償が認められました。

「鉄塔破壊事件に関与」宗教団体に100万円(平成17年)

文藝春秋が、原告が鉄塔破壊事件に関与していると掲載。裁判所は「真実性の証明がない」として名誉毀損を認め、損害賠償を認めました。

「裸婦画はセクハラ」弁護士に300万円(平成17年)

弁護士会館の裸婦画の移転でのやりとりで「裸婦画はセクハラ、無粋な女性弁護士」と週刊新潮が掲載。裁判所は「記事内容が真実ではなく、社会的評価を低下させる」とし名誉毀損を認め、損害賠償を認めました。

毎日新聞社長の監禁事件、90万円(平成18年)

週刊新潮の「ホモ写真」という広告表現について「公共性・公益性があるとは認められない」とし名誉毀損を認めました。本件は、記事の内容の名誉毀損ではなく、広告表現についての名誉毀損の事例となりました。

「民主党議員が自民党議員の打上げ参加」議員に500万円(平成19年)

週刊ポストが「郵政民営化案に反対票を投じたものの、同法案通過の打ち上げに参加していた」と掲載。裁判所は「事実を欠く記事で公正な言論活動とは言いがたい」とし名誉毀損を認めました。

離婚の経緯を執筆したタレント夫に800万円(平成19年)

離婚の経緯が名誉棄損にあたるという裁判ですが、週刊ポストが手記の形で掲載したものについて、執筆者であるタレントではなく出版社が訴えられることとなりました。裁判所は「公益をはかる目的もなく真実の証明もない」とし名誉毀損を認めました。

「八百長疑惑」財団、力士に1900万円(平成21年)

週刊現代に八百長疑惑の記事が掲載、裁判では100箇所の検討がされ、その多くが社会的信用をさげるもので、裏付けがなく信用するに足らないとされ、名誉棄損が認められ、損害賠償が認められました。

私的なトラブルをすっぱ抜かれた芸能人に200万円(平成21年)

週刊新潮が、「芸能人が交際相手に慰謝料を求め支払いを受けた」という記事を掲載したことについて、名誉棄損であると認めました。

本判決では、芸能人の私生活の内容について、公共性を否定しました。

「革マル派に支配」JR東日本労組200万円(平成22年)

週刊現代に掲載された記事に関して「一部の内容」は否定され、一部につき名誉毀損の不法行為が肯定されました。

「巨大利権、音楽を食い物に」著作権管理団体に500万円(平成20年)

週刊ダイヤモンドに対し「裏付け取材や証拠がなく記事が社会的評価を低下させる」として名誉棄損が認められました。

「準強姦罪に関与」匿名でも200万円(平成18年)

噂の真相が匿名にてイベント・サークルの準強姦罪事件の関与者を掲載しておりました。匿名でも人物の特定が可能であるとして名誉棄損を認めました。

書籍・小説

裏金に関する書籍、北海道県警に60万円(平成21年)

北海道新聞社の記者が取材し、講談社と旬報社から出版された書籍の内容が名誉毀損であるとして、損害賠償が認められました。

日経新聞社長、常務モデルの小説、430万円(平成18年)

週刊現代の小説「乱気流」について「人物を容易に特定でき、ある記述が社会的評価を低下させた」とし名誉毀損を認めました。

新聞

天声人語の一部盗用。週刊新潮に500万円(平成16年)

天声人語の盗用による名誉棄損、信用毀損の不法行為を認め、損害賠償を認めました。

テレビ

原発事故をめぐる元経産大臣の曲解インタビュー、300万円の慰謝料(平成25年)

テレビ東京のカメラインタビューが曲解されたと議員が訴えたところ、裁判所は名誉毀損の不当行為を肯定しました。

インターネット

保険医の取消、欠格期間経過後も掲載。30万円の慰謝料(平成15年)

旧厚生省のホームページに結核期間経過後も保険医の取消情報を記載し続けられたことが名誉毀損となり、国家賠償責任を認める結果となりました。

近隣トラブル、防犯カメラで監視、ホームページ掲載(平成21年)

プライバシー権の侵害等による慰謝料として10万円が認められました。

告訴状提出内容をブログで掲載される。(平成23年)

本件告訴が殺人罪などの嫌疑をかけうる客観的根拠が認められないとして、150万円の慰謝料が認められました。

制裁

弁護士への懲戒請求で、弁護士会からは懲戒しないと決定(平成15年)

相当な根拠もなく行われた懲戒の請求であるとして、70万円の損害賠償が認められました。

街宣活動

不当解雇を訴え敗訴した後に街宣活動で営業妨害(平成16年)

会社の損害として150万円、代表者の損害として50万円が認められた。

まとめ

名誉棄損は、日常生活のあらゆる場面で問題になりうる身近な問題です。

裁判事例をもとに、名誉棄損を行わないよう、また、逆に名誉を棄損されてしまったら適切に対処できるようにしておきましょう。

弁護士によるネットの誹謗中傷対策

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