「アリさんマーク」に学ぶ長時間労働における企業側のリスク


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「アリさんマークの引越社」の現役社員が、テレビ番組「ガイアの夜明け」を通して、「アリさん」の長時間労働や残業代未払いを告発し、大きな反響を呼んでいます。

今回の「アリさん」問題の経緯と、同様の長時間労働に従事させた場合の危険性、労災の認定基準について解説していきます。

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「アリさんマークの引越社」とは

1971年設立。売上高273億円。従業員数4,501名。全国74店舗。

赤井英和がイメージキャラクターでお馴染みの引越会社です。過去には北島三郎や井上和香をイメージキャラクターとして採用したこともありました。

求人では「入社3年目で支店長、年収1000万円も可能」と謳っていまるが、今回の問題との関係はどうでしょうか。

今回の「アリさん」の告発に限らず、引越社をめぐる不祥事はよく世間を騒がせています。

引越社をめぐる不祥事
☛ 退職に伴う奨励金返還の合意の無効判決(2006年)
☛ 過労と知りながら運転させ、死亡事故(2006年)
☛ 時間外労働に関する36協定を結ばないまま基準を超える超過勤務(2007年)
☛ 損害賠償費用を給与から天引き(2015年)
☛ 労働組合加入を理由に不利益な異動命令(2015年)

ガイアの夜明けの放送内容

今回「アリさん」がガイアの夜明けで告発された内容は、「アリさん」で行われた過剰な長時間労働と、これに見合わないほどの低賃金であったことでした。

告発者(仮名:小栗さん)の給与明細
☛ 総労働時間 : 342.8時間
☛ 残業時間  : 147時間
☛ 手取給与額 : 27万2602円

その上、このような低賃金、長時間労働の過酷な環境ではたらいていたにもかかわらず、小栗さんに待ち受けていた未来は明るいものではありませんでした。

会社から懲戒解雇を通告され、会社との間でトラブルが拡大します。

小栗さんと引越社のトラブルの経緯
1. 関東トップの成績を収める
2. 長時間労働の中、車両事故を起こし、その弁償金が給与から天引きされる
3. 弁償金のために借金がかさみ「アリさん」を辞められない状態に
4. 合同労働組合「プレカリアートユニオン」に加入
5. 遅刻を理由に、シュレッダー係に異動
6. 「会の重要書類の漏えい」を理由に懲戒解雇処分
7. 懲戒解雇は不当だとして裁判所に申し立て
8. 会社から復職命令
9. 50日ぶりに出勤したところ再びシュレッダー係に
10. 労働委員会を通じた両者の会談は決裂

これが本当であれば、労基法、労組法などに違反していることは明らかでしょう。

どのような点が労働法に違反するのかについて、以下解説していきます。

「アリさん」問題の労働法違反について

月に340時間の「長時間労働」

1週間当たりの法定労働時間は40時間と定められています。

今回の残業時間は、国が定めている過労死ラインの100時間を上回る147時間でした。

なお、厚生労働省の「時間外労働の限度に関する基準」では、1ヶ月間の時間外労働の上限は45時間までと決められています。

この基準に違反しても罰則規定はありませんが、労働基準監督署の指導の対象になる可能性があるという意味では、これをはるかに上回る147時間の長時間労働は、相当長いといってよいでしょう。

月70時間の労働を「みなし残業」

まず、月70時間の「みなし残業」を支払っていたということですが、これを残業代として差し引いた金額が、最低賃金(東京では907円)を下回っている場合には最低賃金法違反で違法になります。

さらには、「アリさん」のケースでは、みなし残業が支払われることについて入社時に全く説明をうけていなかったということであり、また労働条件を記載した書類も回収されていたことが問題となりました。

このように、労働条件の説明が全くなかった場合には、そもそもみなし残業すら無効となる可能性もあります。

「弁償金制度」

小栗さんには事故の弁償金48万円が請求され、給料から天引きされていたとのことです。

事故の原因が労働者の過失によるものであれば、会社は労働者に対して損害賠償を求めることができます。

しかしながら、会社には事故を未然に防止する危機管理義務があります。また、労働者を適切に監督して労働者の過失を防ぐべき監督義務もあります。したがって、労働者のミスが原因であるという場合にも、その全額を労働者に損害賠償請求するのは適切でない場合が多いといえます。

ましてや、同意なく損害賠償を給料から天引きすることも、労働基準法違反となります。

今回の問題は、社員たちが「蟻地獄」と称しているように、長時間労働を行わせて事故を誘発し、会社への借金をつくらせ、退職できないようにさせるという点に、会社側の意図があったのかどうかという点がポイントとなります。

懲戒解雇理由

まず内部告発は法のもとに保護されています。「会社の機密情報を漏らした」ことを理由とする懲戒解雇は、この内部通報保護の関係で、無効となるものと考えられます。

もっとも今回は、復職命令がでましたので、不当解雇問題については会社の負けということで解決したようです。

正当な理由のない異動

労働組合に入ったことを理由にした異動は、労働組合法で固く禁じられています。もちろんそのことがわかっているからこそ企業は別の理由を見つけるのでしょうが、時系列から見て因果関係がみえると、労働組合への加入を理由とした異動なのではないかと疑われます。

長時間労働の場合、労災認定基準は?

「アリさん」問題では、不幸中の幸い、小栗さんが脳疾患、心臓疾患、精神疾患、過労死などの障害を負いませんでした。

もし、これらが発症してまった場合は、さらに問題がこじれていたことでしょう。

参考までに長時間労働の労災認定基準を解説してきます。

脳・心疾患の労災認定基準

厚生労働省は、「脳・心臓疾患の労災認定基準」において、以下のような見解を示しています。

・発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたり概ね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いと判断されるが、概ね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まるものと判断される。

・発症前1か月間に概ね100時間を超える時間外労働が認められる場合、または発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと判断される。

脳・心臓疾患の労災認定基準

精神疾患の労災認定基準

厚生労働省は、「精神疾患の労災認定基準」において、以下のような見解を示しています。

・うつ病等の精神疾患の発症直前1か月間に概ね160時間以上、又は、直前3週間に概ね120時間以上の時間外労働が認められれば、その事実だけで労災認定されます。

・1か月間で160時間、3週間で120時間という基準に至らなくても、1か月間で100時間程度の時間外労働があれば、心理的負荷となる他の出来事(転勤、配置転換、2週間以上の連続勤務、セクハラ、パワハラ等)との総合的な評価により労災認定されうることも定められています。

精神症が来の労災認定

まとめ

長時間労働を労働者に行わせた場合に、企業にとって最大のリスクは過労による疾患や過労死、自殺などでしょう。これによって、多額の損害賠償を負わなければならないことはもちろん、企業イメージも大きく悪化です。

今回の場合はテレビにとりあげらたこともあり、不買運動につながる可能性すらあります。

一般的に、長時間労働を行いながら残業代を支給していない企業は、みなし残業、辞めさせない仕組み、正当理由のない異動や解雇など、その他の労働法違反を併発する企業体質になっている可能性があることが浮き彫りとなりました。

今回「ガイアの夜明け」で取り上げられたことが教訓となり、多くの企業の皆様の労働環境改善につながること祈ります。

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