出向中の長時間労働(月180時間以上の残業)やパワハラによって精神障害にり患して自殺した男性の遺族が、出向元と出向先に対して約9500万円の損害賠償を求めていた裁判の判決が下されました。
各報道によれば、東京地裁は、平成28年3月16日、出向先と出向元に対して約6000万円の損害賠償の支払いを命じたとのことでした。
労働者が出向、派遣などの状態にある場合、長時間労働などによって損害を負った場合の安全配慮義務を負うのがどの会社であるか、不明確となる場合がありますが、今回の判決では出向元の責任をも認めたことに意義があります。
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このページの目次
そもそも安全配慮義務とは?
労働者と会社とは雇用関係にありますが、雇用関係の本質的な内容は「会社は労働者に賃金を支払う義務があり、労働者は会社に対して労働を提供する義務がある」ということです。
しかしながらこれに加えて、信義則上、会社は労働者を安全な環境で働くことができるようにする義務があり、これを「安全配慮義務」といいます。
長時間労働を行う従業員を放置し、業務の転換、異動、長時間労働の軽減といった対策を行わず、精神疾患、脳・心臓疾患などにり患させてしまった場合、会社は安全配慮義務の違反の責任を問われ、損害賠償の責任を負うこととなります。
長時間労働による安全配慮義務違反のケースについては、こちらの記事でも紹介しています。
(参考1)「アリさんマーク」に学ぶ長時間労働における企業側のリスク
(参考2)ドンキホーテが長時間労働で送検!捜査をした「かとく」とは?
出向・派遣の場合、誰が安全配慮義務を負うのか?
派遣社員の安全配慮義務・労災責任
派遣社員の場合、労災にあった場合には、派遣元が労災補償の責任を負うとされ、労災保険についても派遣元で労災申請をして保険給付を受けるものとされています。
ただ、災害補償の責任は派遣元にありますが、派遣先は、派遣社員に対して指揮命令権を持っており、労務管理を行っておりますので、これを怠った場合には派遣先が安全配慮義務違反の責任を負うこととなります。
出向社員の安全配慮義務・労災責任
出向には在籍出向(出向元に籍を残しながら出向先に出向するケース)と転籍出向(出向元の籍を抹消し、出向先に新たな雇用関係を結ぶケース)とがあります。
在籍出向のケース
在籍出向の場合には、派遣社員の他愛とは異なり、出向社員が労災にあった場合には出向先が災害補償の責任を負うのが原則です。労災保険についても出向先の労災保険を利用して、出向先が労災申請をして保険給付を受けるものとされています。
安全配慮義務違反の責任についても同様に、出向社員に対して指揮命令権を持ち、労務管理を行っている出向先がこれを行い、安全配慮義務を怠った場合にはその責任を負うのが原則となります。
本判決の意義は、出向元と出向先とが同じフロア内にあり、出向元も出向社員の就労状況を監督することができ、予見可能性があったことを理由として、出向元にも安全配慮義務違反の責任を負わせたことが重要です。
転籍出向のケース
転籍出向の場合、出向元との労働契約関係は終了し、出向先との間で新たな労働契約を締結することになりますので、当然ながら災害補償・労災保険、安全配慮義務違反の責任を負うのは出向先となります。
ただし、本判決が転籍出向のケースに適用されるかどうかは明らかにはなっていないものの、転籍出向のケースであったとしても出向元と出向先に密接な関係があり、出向元も労務管理を行っていたと評価できる場合には、出向元も安全配慮義務違反の責任を負うと判断されるおそれのあるケースもあるものと思われます。
今回の判決の概要と、その意義
今回の判決は、諸報道によれば、次のような事情をその前提としていました。
☞ 出向から3か月で精神疾患にり患して自殺
☞ 死亡直前の残業時間が付き180時間
☞ 労災認定を取得済
今回の判決では、実際に就労しており監督をすべきであった出向先の責任はもちろんのこと、出向元の責任をも認めた点に重要な意義があります。
まとめ
派遣、出向など労働者の在籍と労務管理の所在とが分かれていた場合、労災、安全配慮義務違反の責任を誰が負うか不明確となる場合があります。今回の判決で、出向元も責任を負う場合があることが示されたことに大きな意義があります。
今回は、派遣、出向の場合に、労災、安全配慮義務違反の責任を誰が負うかについて解説しましたので、参考にしていただければと思います。
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