採用を考えるにあたって、もし皆様の会社が、順調に成長して、新たに社員を雇うことをお考えでしたら、法的な観点を無視して進めてしまっては、将来の大きな火種を抱え込むことにもなり得ます。
新しい社員を雇い入れることは、御社の拡大のために避けては通れないイベントでしょう。しかしながら、創業期から順調に培ってきた御社の社風・雰囲気・イメージに新たな風を入れることになりますから、将来トラブルを生まないよう慎重に進めていく必要があります。
今回は、皆様が新たな社員を採用する際に、「絶対に伝えておかなければならないことは?」「こんなことを伝えて良いのだろうか?」「聞いてはいけないことってあるの?」という疑問に、法律の専門家の視点からお答えいたします。
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このページの目次
採用する際に伝えておくべきこと
労働基準法では、会社は、社員を雇い入れるときに、労働条件を明示しなければならないものと定められています(労働基準法15条1項)。
そして、以下の事項は、必ず書面を示して説明することが必要であるとされております(詳細は労働基準法施行規則5条1項をご参照ください。)。
2.期間の定めがある場合には、更新の基準
3.就業の場所、従事すべき業務
4.始業・終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇など
5.賃金などに関すること
6.退職に関すること(解雇の事由など)
また、以上の事項以外にも、退職金、休職制度などの制度を導入する場合には、あらかじめ明示が必要とされております。
ちなみに、雇い入れるときに明示した労働条件が、実際と異なるものであった場合には、社員は、労働契約を即座に解除することができるとされておりますから(労働基準法15条2項)、明示をする前に慎重に検討する必要があります。
採用する際に、伝えてはいけないこと
では、本題である、採用する際に、伝えてはいけないことはあるのかについて、詳しく解説していきます。
今回は、特に新たに社員を雇おうとお考えのベンチャー企業の方々からよく寄せられるご相談をご紹介いたします。
精神病などの病歴について
御社での労働時間が長くなりがちな場合、新たに入ってきた社員が、長時間労働によるストレスなどを原因として、うつ病にかかってしまったなどと主張して、慰謝料の請求がされるおそれがあります。このようなトラブルを抱える社員をあらかじめ排除するために、採用の際に精神病の病歴について答えるよう伝えてよいのでしょうか。
近年の個人情報に関する意識の高まりから、病歴は特に取扱いに注意するべき情報とされており、回答を求めることには一定の制限があるものとお考えください。たとえば、B型肝炎、エイズなどの、絶対に人に知られたくないと考えられる病歴であって、御社の業務に特に支障がないものであれば、回答をさせることはできないでしょう。もちろん、社員本人の同意の上で回答をもらう分には構いませんが、真摯な(心からの)同意である必要がありますから、同意を得る場合には細心の注意を払いましょう。
これに対して、精神病の病歴など、御社の業務に支障が生じるおそれが高いものについては、そのような理由付けをすることができれば、業務に関係する範囲内に制限して、回答をさせることが適切です。なお、この場合であっても、社員本人の同意を得た方がより良いでしょう。
退職理由について
履歴書の職歴をみると、いろいろな会社を転々としており、どこの会社でもあまり長く続かない方が応募してきた場合、前職の退職理由が気になるところです。仕事に向かう姿勢に問題があるなど、御社にとっても問題のある社員であった場合にあらかじめ排除するため、採用の際に前職の退職理由について回答するよう伝えてよいのでしょうか。
退職理由を確認するためには、まずは前職の会社が発行した退職証明書を求めるのがよいでしょう。ただ、退職証明書では、法律上、退職理由を書かないよう求めることができますから(労働基準法22条)、その場合には、面接などで回答するよう伝えてよいでしょう。このような方に対しては、退職理由を隠そうとしていることも含めて考慮して、御社にとって本当に必要な人材であるかを慎重に判断するべきです。
その他の、「聞いてはいけないこと」
このほか、厚生労働省の出している「公正な採用選考を目指して」というパンフレットでは、業務の適性・能力に関わることを聞くべきであって、本人に責任のないこと(出生地、家族など)、本来自由であるべきこと(宗教、政治思想など)を会社が把握しないよう配慮するように指導がなされておりますので、参考にしましょう。
以上のことを参考に、実際に、御社の気になること、聞きたいことが、許されるのかどうかについては、具体的な状況に応じて、専門家のアドバイスをもらうのもよいでしょう。
採用の自由とは?
民法の基本原則の一つに「契約の自由」というものがあります。お互いの合意で決められる契約は、どのような相手と、どのような内容・方式で契約しても、当事者の自由に任されているという原則です。
この契約の自由の一環として、使用者である会社には「採用の自由」があるとされております。これは、差別禁止などの規制に違反しない限り、雇い入れ人数、募集方法、どの社員を採用するか、どの社員を採用しないか、採否を判断するために調査をすることなどについて、自由に決定することができるという意味です。
現在もなお長期雇用慣行が存在しており、一旦雇い入れると解雇をすることが難しいといわれている日本において、新たな雇用戦略を考えるにあたっては、会社が採用の自由を有していることをしっかりと意識することが重要です。
なお、採用時には、雇用契約書を作成・締結することはもちろんですが、入社誓約書、身元保証書などを取得しておくと、後々のトラブルの回避に役立ちます。
まとめ
このように、一口に採用といっても、いい人材をとればよいという以外に、法律上気を付けなければならない細かいことが多く存在します。
見落としがある場合、面接でのパワハラ行為などといった請求につながりかねませんので、採用の手続きを開始する前には、顧問弁護士・顧問社労士などのアドバイスを受けながら進めるのが良いでしょう。
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