職場で上司から怒鳴り散らされたり、不当な扱いを受けたりした場合、近年社会的に問題化している「パワハラ」(パワーハラスメント)ではないかと思うことが多いでしょう。
パワハラにあたる場合には、加害者である上司や、パワハラを放置した会社に対して損害賠償請求などの責任追及が可能となります。
では、どの程度の行為が違法なパワハラとして損害賠償の対象となるのかについて解説していきます。
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このページの目次
そもそもパワハラとは?
パワハラという用語は法律用語ではなく、法律上に定義があるわけではありません。
近年、パワハラが社会問題化したことを受けて、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ」の作成した報告書にて、次のように定義されています。
パワーハラスメントの定義(厚生労働省ワーキンググループ)
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
その上で、このワーキンググループの報告書では、職場のパワーハラスメントについて、6つの行為類型に分けて具体的な行為を定義しています。これは、ある行為がパワハラに該当するかどうかを判断しやすくするための基準となります。
☞ 身体的な攻撃
暴行、障害など
☞ 精神的な攻撃
脅迫、暴言など
☞ 人間関係からの切り離し
隔離、仲間外し、無視など
☞ 過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
☞ 過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること
仕事を与えないこと
☞ 個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
ただし、この分類はあくまでも類型化の便宜のために作成されたものであって、違法なパワハラがこれに限られるということではありません。この分類に該当しない行為であるからといってすべて適法であるというわけではないので注意が必要です。
パワハラと不法行為の境界線
パワハラの民事上の責任は?
違法性を有するパワハラは、民法上の不法行為に該当する可能性があります。民法上の不法行為に該当すると、被害者は、加害者や会社に対して損害賠償請求をすることが可能となります(民法709条、715条)。
また、同時に労働契約上の安全配慮義務違反を理由として、被害者は会社に対して債務不履行による損害賠償請求が可能となります。会社は労働者を安全な環境で働かせる義務がありますから、パワハラを放置して精神疾患にり患させてしまえば、安全配慮義務違反となるのは当然です。
不法行為責任を追及できるパワハラの範囲
ただ、感じ方、受け止め方は人それぞれで個人さがありますから、従業員が不快に感じた行為がすべて違法なパワハラとなるとは限りません。また、業務上必要な範囲の適切な注意指導、教育、指示にあたる場合には、それが業務上適正な範囲である限りパワハラとは評価されないこととなります。
違法なパワハラとして損害賠償請求の対象となるかどうかは、次のような事情によって総合的に判断するべきです。
☞ 行為の態様、回数、程度
☞ 人格権を不当に侵害しているかどうか
パワハラの損害賠償請求額
以上のことを考え合わせて違法なパワハラにあたるという場合であっても、損害賠償額がどの程度になるかはケースバイケースです。
具体的には、次のような事情を総合的に考慮して金額が決まると考えられます。
☞ パワハラ行為の期間、頻度
☞ 加害者の地位、役職
☞ 被害者の地位、役職
☞ 被害者の実際の損害の程度
☞ 業務上の指導目的の行き過ぎか、純粋な嫌がらせか
また、パワハラの予防、パワハラが発覚した後の事後対応を適切に行っていない場合には、パワハラを放置した会社にも使用者責任や安全配慮義務違反の責任が認められる可能性が高いので、適切な対応が必要です。
パワハラの解決方法
パワハラの程度によっては、その程度が軽度であれば、損害賠償請求ではなく社内の話し合い、今後の再発防止、当事者の異動・配置転換といった方法によって解決すべき場合もあります。
このような場合の損害賠償額は数十万円程度となる場合もありますので、闇雲に裁判をするのではなく、まずは話し合いでの解決を目指すべきでしょう。
会社の側でも、話し合いによって解決すべき軽度のパワハラ問題については、発覚し次第直ちに再発防止策を講じ、適切な対応をすることによって、これ以上問題を拡大させないように努力しなければなりません。
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