ロート製薬は、平成28年2月24日、ロート製薬の正社員に対して副業(兼業)を認める「社外チャレンジワーク」制度を、同年4月から実施することを発表しました。対象は管理職を含む全社員に適用されるとのことです。
正社員の場合、原則として副業(兼業)は禁止であるという会社が多いでしょうから、画期的な取り組みとなります。
特別な「副業OK」の制度を設けなかったとしても、また、雇用契約や就業規則で副業(兼業)を禁止していたとしても、職業の自由が保証されます。今回は、副業、兼業を行う際の注意点を解説します。
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このページの目次
兼業(副業)は本来、「自由」が原則!
なぜ兼業を禁止するのか
日本では、就業規則、雇用契約などで兼業(副業)を一律に禁止する企業が多く、社員に対して社内の仕事だけを忠実に行うよう、職務専念義務を厳しく考える傾向が強いといえます。
これは、兼業を禁止しなければ次のようなデメリットが予想されるからです。
☞ 副業の労働時間が長くなり、過労で健康を損なう
☞ 副業で稼げる社員と稼げない社員の不公平感が生まれる
☞ 異業種の副業によって本業の名誉、信用、品位がおとしめられる
しかしながら、少子高齢化による労働人口の減少、長時間労働に対する規制、労働時間の柔軟化、多様な従業員の活用といった最近の風潮からすれば、一律の禁止は改められるべきです。
本来、兼業(副業)は自由
憲法上、国民には「職業選択の自由」が認められており、どのような職業を行うかは社員が自由に選択することができます。そして、雇用契約によって社員を拘束することができるとしても、拘束が可能なのは労働時間の範囲内に限られ、労働時間外の行動は、自由です。
したがって、「休息をとる」「趣味の時間とする」「家族との団らんを楽しむ」といった選択肢と全く同様に「副業で稼ぐ」という選択肢をとることも自由であるはずなのです。
例外的に兼業(副業)が法律上禁止されるケースがある
兼業(副業)は自由であるのが法律上の原則ですが、雇用契約を締結している以上一定の制約は許され、ある一定の程度を超える兼業(副業)は法律上も禁止することが可能です。
本業に支障を生じるケース
副業の業務が本業に支障を及ぼす場合には、そのような兼業(副業)に限って禁止することは会社に許されています。
たとえば、本業に支障を生じるケースには、労務提供への支障が生じるケースや、経営上の秘密の漏えいに繋がるケースが考えられます。
☞ 本業と全く同業、本業と競合する会社を副業とし、ノウハウが漏れた
このような場合、例外的に兼業(副業)を禁止することが裁判事例でも有効と認められています。
本業の企業秩序を乱したり、信用を棄損したりするケース
副業の業務を行うことが本業の企業秩序を侵害したり、信用を棄損したりするケースについても、そのような兼業(副業)に限って禁止することが会社には許されています。
たとえば、次のようなケースです。
☞ 本業の職場で副業を行うことによって会社、他の社員に迷惑をかけた
以上の通り、原則自由な副業(兼業)とはいえ、限られた場合に限定すれば、就業規則や雇用契約によって禁止とすることも可能とされています。
兼業(副業)OKのメリット
兼業(副業)を表立って認めることには、従業員にメリットがあることはもちろん、企業にとっても大きなメリットが享受できる可能性があります。加えて、社会全体にとっても有益性の高い制度といえます。
多様な人材の成長につながる
一つの会社の仕事だけでなく社外の仕事、会社だけでなくNPO、プロボノといった多様な業種を経験することにより、社内の人材の多様性を成長させることが可能となります。
会社の枠を超えた技術、ノウハウ、人脈を培うことが可能となります。
企業の社会貢献(CSR)につながる
会社の従業員が他社の仕事を行ったり、ボランティア、NPO、プロボノといった多様な活動に貢献したりすることによって、企業自体の社会貢献に繋がり、CSRに寄与します。
人手不足解消につながる
少子高齢化の進行によって労働人材の減少が社会問題化する中で、労働力の余剰となった時間を他の仕事を行うことができるようにすることによって、社会全体の人手不足状態を解消することができます。
社員の収入補填となる
長時間労働の規制、適正な残業代の支払が強化される中で、企業は長時間労働を抑制し、残業代の減少を心がける必要があります。その分の余剰の時間を社外の労働にあてることによって、従業員としても残業代の減少を補填することが可能です。
ロート製薬の副業OKのケース
ロート製薬の発表や報道によれば、ロート製薬の導入する「社外チャレンジワーク」制度の概要は、次のようなものです。
☞ 複数の部門・部署を社内で担当できる社内ダブルジョブ制度との併用
☞ 新CI「NEVER SAY NEVER」実現のための取り組み
☞ 終業後、土日祝日など本業に支障がない兼業を認める
既に従業員に対する募集は開始しているようです。
本来的には職業選択の自由から兼業(副業)は自由であるのが原則ですが、就業規則上一律禁止となっていたり、許可制となっていても許可申請の方法が不明であったり、社内の風潮から申請を事実上できなかったりという会社がほとんどである中、ロート製薬の取組は法律上当たり前のことを認めたものとはいえ、非常に画期的です。
ロート製薬副業OKの結果は?
その後のロート製薬の発表によれば、副業OKを示した「社外チャレンジワーク制度」の結果、60名の社員がこの制度に応募し、副業をスタートさせるとのことです。
募集対象は3年以上の正社員で、1500名程度とのことですので、少なくない人数の方が応募したといえます。
本来、兼業、副業を一律に禁止することは違法であり、審査制度、職業の内容の限定といったことを行っていた会社は今までもあったでしょうが、今回のロート製薬の社外チャレンジワーク制度では、競業となる場合などの例外的なケース以外では厳密な審査はないとのことです。
まとめ
本来、職業選択の自由から、兼業(副業)を会社が一律に禁止することはできませんが、とはいえ社内の空気、社風、人間関係などとの調和から、会社が一律に兼業(副業)を禁止と定めている場合、事実上不可能でした。
ロート製薬の取り組みは、会社が職業選択の自由からくる兼業(副業)の自由化を表立って認めた点に大きな意義があります。
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