インターネット上で、誹謗中傷などの権利侵害にあたる書き込みがされた場合、なんとか書き込んだ者を突き止めて、損害賠償請求、慰謝料請求などの責任追及をしたいと考えるでしょう。
インターネットは、ネットワークを相互に接続した世界であって、このインターネットのネットワークに接続するためには、パソコンや携帯、スマートフォンに、それぞれIPアドレスという住所が割り当てられます。
その前提として、プロバイダと契約をし、IPアドレスの割り振りを受けなければなりません。
したがって、インターネットにアクセスしているということは、完全な匿名ではなく、一度は氏名、住所などを公にしているのであって、これをたどっていくことによって、書き込みを行ったものを特定可能な場合があります。
今回は、IPアドレスの開示請求などを利用して、書き込みを行った者を特定する方法について解説します。
なお、書き込み自体を削除するための方法、手順はこちらの記事を参考にしてください。
(参考)インターネット上の書き込みを削除する全手順、削除依頼から訴訟まで
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このページの目次
インターネットに接続し、誹謗中傷の書き込みを行うための流れ
インターネットが、多くのパソコン、携帯、スマートフォンのネットワークであること、このネットワークに接続するためには、IPアドレスという住所を割り振られる必要があることから、インターネットに接続するためには、プロバイダ(インターネットサービスプロバイダ)との間で契約を結ぶ必要があります。
その上で、インターネットに接続し、誹謗中傷の書き込みを行うためには、まずインターネットサービスプロバイダのサーバに接続し、次に、書き込み先のホームページのデータが保管されているプロバイダ(コンテンツプロバイダ)のサーバに接続をするという順序でネットワークをたどっていく必要があります。
書き込みをした者を特定するための流れ
したがって、書き込みをした者を特定するためには、書き込みをする際にインターネットへ接続する際の流れを、逆からたどっていくこととなります。
インターネットに接続するためには、インターネットサービスプロバイダと契約をしてIPアドレスを割り振られる必要がありますから、この契約の際に書き込みをした者が提供した氏名、住所などがわかれば、この人物に対して損害賠償請求、慰謝料請求が可能となります。
そのため、どのインターネットサービスプロバイダを利用したかを、コンテンツプロバイダからIPアドレスを開示してもらうことによって調査し、その後、その情報をもとに、インターネットサービスプロバイダの保有する個人情報を開示してもらう、という流れとなります。
ただし、プロキシサーバを利用するなど、匿名化を進める方法を書き込みした者がほどこしている場合には、より複雑となります。
まずは削除と、ホームページ情報・書き込み情報の保存
インターネット上の情報の拡散スピードは非常に速いため、書き込みをした者が特定できるまで放置しておいたのでは、権利侵害は歯止めが利かず、損害が拡大します。
そのため、まずは削除依頼、削除請求を行うべきでしょう。書き込み自体を削除するための方法、手順はこちらの記事を参考にしてください。
(参考)インターネット上の書き込みを削除する全手順、削除依頼から訴訟まで
しかしながら、発信者情報の開示を行う際には、どのホームページのどの書き込みを行った者の情報が必要か、プロバイダが理解可能な程度に特定する必要がありますので、あらかじめ、ホームページ情報、書き込み情報を保存しておく必要があります。
具体的には、ホームページと当該書き込みのURLがわかるように、パソコンの画面をスキャンして保存しておくとよいでしょう。
コンテンツプロバイダからIPアドレスとタイムスタンプの開示を受ける
なぜIPアドレスが必要なのか
まずは、インターネットサービスプロバイダから契約者情報の開示を受ける前提として、どのIPアドレスの者の契約者情報を開示してほしいかを特定する必要があるため、コンテンツプロバイダから、どのIPアドレスの者が書き込んだかを教えてもらう必要があります。
IPアドレスからわかるのは、そのIPアドレスがどのインターネットサービスプロバイダが割り振っているものか、という情報のみであって、契約者情報が直接わかるわけではありません。
また、インターネットサービスプロバイダは、限られたIPアドレスを、接続のたびごとに変化させて割り振っているため、同じIPアドレスが、別のタイミングで別のパソコンに割り振られていることとなります。したがって、「タイムスタンプ」といって、どの時間に割り振られたIPアドレスであるかという情報も収集する必要が出てきます。
発信者情報開示請求書による依頼
「発信者情報開示請求書」という書類を作成して送付することによって、これを郵送することによって発信者情報の開示を依頼します。
発信者情報開示請求書を受け取ったコンテンツプロバイダは、まず、発信者に対して発信者情報開示請求がされたことを伝えるとともに、発信者情報を開示すべきかどうかについて、照会を行い、2週間以内の回答を求めるのが一般的です。
そして、照会に回答がなかった場合、照会への回答が発信者情報を開示すべきであるものである場合、発信者情報を開示することとなります。
一方で、発信者情報を開示すべきでないとの回答をした場合には、開示をしないのが一般的であり、仮処分によって開示を求めることとなります。
発信者情報開示の仮処分
発信者情報開示請求書を送っても任意に開示がなされない場合には、仮処分によって開示を求めることとなります。
裁判所に、発信者情報開示の仮処分を認めてもらうためには、次の2つを証明しなければなりません
1.権利の存在
発信者情報開示請求権の存在
2.保全の必要性
早急に開示しなければ回復しがたい損害が生じるおそれ
保全の必要性としては、コンテンツプロバイダがIPアドレスの情報を保存している期間が非常に短いこと(3か月前後が一般的といわれますが、会社によって異なります。)があげられます。
そのため、この仮処分と並行して、ログの保存を求めておくのが一般的であり、その方法としては、弁護士がコンテンツプロバイダに対して書面で任意の保存を求める方法と、仮処分によって求める方法とがあります。
インターネットサービスプロバイダから契約者情報の開示を受ける
最後に、コンテンツプロバイダから得たIPアドレスなどの情報をもとに、インターネットサービスプロバイダへ、契約者情報の開示を求めます。
この場合、契約者情報という非常に秘匿性の高い個人情報の開示を求めることから、任意の開示はあまり期待できないのが通常であり、訴訟によって行うこととなります。
ただし、すでに説明したとおり、発信者情報開示を行えば、書き込みをした者本人へ、照会がいくこととなりますので、責任追及を今後行うことを明らかに知らせることによって、任意に削除してくれることを期待できる、という副次的効果があります。
発信者を特定した後にやるべきこと
発信者を特定できたら、発信者の責任を追及することとなります。
その方法として最も一般的なのは、損害賠償請求の訴訟をすることでしょう。
この場合には、損害と因果関係の立証が重要となってきます。すなわち、その書き込みが行われたことで、どのような損害が発生したのかを、具体的に立証し、裁判官を説得する必要があります。具体的な損害が明らかではない場合には、「慰謝料」程度のお話となりますが、その場合、期待したほどの金額ではないかもしれません。
なお、平成28年4月14日に発生した熊本地震に起因して「動物園のライオンが逃げ出した」という内容のデマを書き込みした男性が、平成28年7月20日、熊本市動植物園の業務を、虚偽の風説を流布することによって妨害したとして、偽計業務妨害罪で逮捕されました。
このように、どうしても損害額に納得がいかない場合には、ケースによっては、刑事責任を追及するという道もあることを覚えておくとよいでしょう。
間違っても、突き止めた住所に自分で訪問してなんとかしようとすることは、二次的なトラブルを生みますので控えましょう。
まとめ
以上の通り、発信者情報の開示を受けるためには、インターネットへの接続の過程を逆からたどりながら情報を収集することによって可能ではあるものの、複雑な手続きが複数回必要になりますし、また、訴訟等の法的手続きが必要となる可能性が高いといえます。
まずは、IT問題に詳しい弁護士へ相談してみるとよいでしょう。
また、書き込みをした者が特定できたとしても、自分で住所を尋ねていくといった行為は、また別のトラブルを招く危険性が非常に高く、自力救済として法律上も禁止される行為です。特定後は、損害賠償請求、慰謝料請求、告訴といった、法律にのっとった救済方法を、弁護士にアドバイスを受けるようにしましょう。
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