相続財産の中に不動産がある場合には、相続財産の評価額のうち、その多くの部分が不動産であるケースも少なくありません。
不動産が高価であることから、多額の相続税を支払うこととなることも多いといえます。実際、相続税がかかる財産のうちの半分は、土地であるという統計結果もあります。
したがって、土地の評価方法を詳しく理解し、利用可能な補正、減額を利用しつくすことが、相続税を減額するための第一歩となります。
今回は、相続財産のうちの不動産の評価方法について解説します。
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3つの基本的な土地評価の方法
相続財産のうち、不動産というカテゴリーには、土地、建物の2種類があります。土地と建物とは、同じ所在地にあっても、分離して別々に評価するのが通常です。
相続税評価を行うにあたっては、次の通り、土地、建物の評価方法を理解するようにしてください。
なお、相続税評価の際には、次のような資料を収集します。
- ☛ 固定資産名寄帳
- ☛ 住宅地図
- ☛ ブルーマップ
- ☛ 全部事項証明書
- ☛ 公図
- ☛ 地積測量図
- ☛ 路線価図、倍率表
資料収集のポイントは、個性資産税通知書には記載されない、固定資産税が非課税の土地であっても、相続税がかかるものがある場合、これらも含めて資料収集をするよう注意しなければならない点です。
建物の評価方法
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同様とされます。
すなわち、建物の相続税評価額を調べるためには、固定資産税評価額を調べればよいので、所在地の地区町村から、毎年6月ころに送られてくる固定資産税の納税通知書を見ればわかります。
また、固定資産税評価証明書を、所在地の市区町村に申請する方法によっても調査することができます。
土地の評価方法①「路線価方式」
土地の評価方法には、2つの評価方法があり、どちらが適用されるかは、その土地の所在地によって異なります。
主に市街地で適用される評価方法が「路線価方式」です。
路線価方式では、道路ごとに設定された宅地1平方メートルあたりの評価額である「路線価」に、その道路に面した宅地の面積をかけたものを評価額とします。
- 10万円 × 200平方メートル = 2000万円
したがって、その土地の評価額は、2000万円となります。
路線価の表示の仕方は、その道路に面する宅地の評価額を示しています。
実際には、1つの道路にしか面していない真四角な土地は稀であるため、宅地の形状や道路付けによって、評価額の補正が必要となります。
土地の評価方法②「倍率方式」
土地の評価方法には、2つの評価方法があり、どちらが適用されるかは、その土地の所在地によって異なります。
路線価のない地域で用いられるのが「倍率方式」です。
倍率方式では、固定資産税評価額に一定の倍率をかけ、これを評価額とします。
固定資産税評価額にかける倍率の比率は、地目、すなわち、その土地の利用目的にしたがって決められていますので、評価倍率表を調査します。
- 1000万円 × 1.2 = 1200万円
したがって、その土地の評価額は、1200万円となります。
倍率方式によって土地の評価をする場合には、固定資産税評価証明書の記載をよくみていただくわけですが、この際、注意していただきたいポイントは次のとおりです。
地目ごとに評価すること
土地には、「宅地」「畑」などという「地目」という区分があり、利用方法によって地目が設定されています。
地目が違う場合には、相続税の評価においては、別々の土地としてそれぞれ評価をします。
利用単位ごとに評価すること
地目が一緒であっても、利用単位が異なる場合には、それぞれ別々の土地として評価をします。
例えば、同じ宅地であっても、自分で家を建てて住んでいる部分と、マンションを建てて人に貸している部分とが隣接している場合には、それぞれ別々に評価することとなります。
取得者ごとに評価すること
ある土地が、地目も1つ、利用単位も1つであったとしても、その土地を、2人の相続人が、それぞれ分割して取得すれば、それは別々の土地として評価をすることとなります。
土地の評価は、角地などの利用しやすい土地の評価は高く、間口が狭かったり奥行きが長かったりなど利用しにくい土地の評価は低くなります。
そのため、土地を、2人の相続人で分割して相続することによって、土地の相続税の評価額を下げることができる場合があります。
相続開始日の現況で評価すること
登記簿の地目は、しばらくの間変更されていない場合があり、また、固定資産税の評価も、1月1日の現況で決定されます。
これに対して、相続税の評価は、相続が開始した日の現況で評価する必要があります。
そのため、登記簿の地目が現況と異なっていたり、固定資産税評価が決まった後に土地の現況が異なった場合には、相続税の評価は、登記簿や固定資産税評価ではなく、現況を優先して判断されることとなります。
筆界と関係なく評価すること
相続税は、筆ごとではなく、利用単位ごとに決まります。
そのため、1筆の土地であっても、利用状況が違えば分割して評価されますし、2筆の土地であっても、一体利用されていれば一体として評価されます。
路線価、倍率の調査の仕方
以上の通り、土地の評価は、路線価、ないし、倍率によって計算をすることとなります。
この路線価、倍率の調べ方は、「財産評価基準書(路線価図、評価倍率表)」(国税庁)のホームーページで探すようにしてください。
相続税を減額するための各種補正・減額
土地の評価を路線価方式、もしくは倍率方式によって定めたとしても、同じ路線価の道路に面しており、同じ面積であっても、評価額が異なるケースがあります。
これは、各種の補正、減額があるためです。そして、場合によっては、評価額に大きな差がつくケースもあります。
ただし、これらの補正、減額を利用することができるかどうか、どのように土地を評価すべきかは、かなり専門的であり、実際には相続の専門家の判断をもらう必要があり、場合によっては、不動産鑑定士の意見書を作成してもらわなければならないケースも多いといえます。
なお、相続税は、相続人がその金額を算出し、申告して納税をするという手続きとなりますから、もし税務署の調査によって支払うべき税金が未払いの場合には追徴課税されますが、逆に、各種補正・減額を利用せずに支払いすぎていた場合であっても、税務署がアドバイスをくれることはありません。
奥行きのない土地、奥行きのある土地の補正
道路からの奥行きがあまりない場合や、逆に、道路からの奥行きがありすぎる場合、土地の利用の仕方が限定されることから、「奥行価格補正率」という率をかけることによって、評価額を一定割合下げることができます。
この場合、路線価と土地の面積をかけた評価額に、この「奥行価格補正率」をかけて、土地の評価額を算出することとなります。
不整形地の補正
不整形地の場合には、全体に占める不整形な部分の割合によって、最大で40%まで定められている「不整形地補正率」をかけて、土地の評価額を下げることができます。
この場合、路線価と土地の面積をかけた評価額に、この「不整形地補正率」をかけて、土地の評価額を算出することとなります。
例えば、一般的なふつう住宅地区の場合、不整形地の割合が30%以上のときは90%、不整形地の割合が65%以上のときは50%の不整形地補正率を乗じることができると定められています。
広大地の補正
広大地の場合には、広大地補正率を適用することによって、土地の評価額を、3割~6割程度に下げることができます。
国税庁財産評価基本通達に、「広大地」の定義が、次のように定められています。
「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」
すなわち、土地利用を考えた場合に、自治体からの指導で公園を設けなければならない場合があるなど、広い土地にはその分制約があるため、利用できる面積が減る可能性のある分だけ、相続税評価額においても減額すべきであるというのが、広大地の制度です。
どの程度の広さ以上であれば、広大地とされるかは、三大都市圏の市街化区域では500平方メートル、それ以外の地域の市街化区域では1000平方メートルが1つの基準とされるものの、ケースバイケースの判断が必要とされます。
利用価値が著しく低下している宅地の補正
利用価値が著しく低下している宅地の場合には、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額の10%を、相続税評価額から控除することができます。
利用価値が著しく低下している例とは、道路より高い場所や低い場所にある宅地で、その高低差が大きい場合や、地盤に甚だしい凹凸のある宅地、振動の甚だしい宅地などが例にあげられています。
その他、取引金額に影響を与えられると判断される事情がある場合には、個別にケースバイケースの判断となります。
無道路地の補正
無道路地の場合には、路線価に基づいて不整形地の評価によって計算した評価額から、40%の範囲内において相当と認める価額を控除することができます。
そして、この、40%の範囲内において相当と認める金額とは、建築基準法その他の法令による接道義務に基づいて、最小限度の道路を解説する場合には、その通路に相当する部分の価額であることとされています。
私道の補正
私道の場合には、通り抜けの用に供しているものなど、公共の用に供する私道については、相続税評価額のうえで、評価しない、すなわち、ゼロであるものとされています。
これに対して、もっぱら特定の者の通行の用に供するもの、例えば、袋小路などの場合には、本来の評価額の30%相当額として評価することが可能であるとされています。
事後的な相続税の減額も可能
すでに解説したとおり、相続税は、相続人が申告して金額を決定するものであって、未払いの税金がある場合には、税務署から追徴課税がなされるものの、「支払いすぎ」という場合には税務署はなんのアドバイスもしてくれません。
すなわち、今回解説したような、相続税減額の手法が使える場合であって、これらを考慮しない相続税額の申告がされていたとしても、支払いすぎは自動的には是正されないわけです。
ただし、更正の請求手続きを行うことで、相続税の法定申告期限から5年以内であれば、払いすぎた相続税を取り返すことができます。
まとめ
今回は、土地の評価方法と、各種の補正、減額方法について解説しました。
相続税を申告した後であっても、法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求手続きによって相続税の還付を受けることが可能です。
セカンドオピニオンが必要な場合には、相続について十分な知識と経験をもった士業チームへの依頼が必須でしょう。
遺産相続に強い弁護士に法律相談!
遺言・遺産相続の問題は、当事者だけで解決しようとすると争いが拡大するケースが多く、不利な解決になりかねません。
遺言、遺産分割でお悩みの方、使い込み、遺留分、寄与度にどうしても納得がいかない方は、親族間で紛争を拡大せず、相続問題に強い弁護士にご相談ください。あなたに親身に寄り添った弁護活動で、有利な解決を実現します。