既婚者であるけれども新しい彼女ができ、新しい恋人と結婚するために今の配偶者と離婚をしたいと考えている場合、離婚の進め方には慎重になる必要があります。新しい彼女ができて浮かれる気持ちはわかりますが、離婚の進め方を誤ると、離婚ができなくなり、当然新しい彼女と結婚することも不可能となります。
既婚者であるのに新しい彼女を作ってしまうことは、法律上の「不貞行為」に該当する可能性の非常に高い行為です。既に夫婦関係が破綻していれば不貞行為にはならないのですが、夫婦関係の破綻が裁判上認められるハードルはかなり高いと考えてください。
夫婦が破綻していないのに新しい恋人を作り、「不貞行為」であると評価されてしまうと、あなたの側に離婚原因があることとなります。離婚原因を作った配偶者を「有責配偶者」といいますが、有責配偶者からの離婚請求は、裁判上かなり制限的に考えられており、離婚を裁判で認めてもらうのは非常に困難です。
そのため、新しい恋人と結婚するために夫婦を離婚したいと考えるあなたの目的を実現するためには、今の配偶者が離婚に同意しなければならないわけですが、「新しい恋人ができちゃったので離婚をしてくれ。」と言われれば、感情的に、「離婚は認めたくない。」と思う人が多いのではないでしょうか。
今回は、自分に離婚の責任がある、いわゆる有責配偶者にあたる場合に、離婚請求が認められるかどうか、またその要件について解説します。
離婚を検討している場合には、離婚問題に強い弁護士へご相談ください。
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このページの目次
有責配偶者は離婚できない?
法律で認められた離婚原因を作った側の配偶者を、有責配偶者といいます。「不貞行為」は、まさに法律で認められた離婚原因の中でも最も主張されることの多いもので、離婚原因の代表選手です。
そのため、不貞行為を行った者が有責配偶者にあたることは明らかであり、有責配偶者の典型例であるといえます。有責配偶者からの離婚請求は、裁判までこじれると、認められないケースが非常に多く、少なくとも、通常の離婚請求よりハードルは格段に高いといえます。
なぜ有責配偶者の離婚は認められづらいのか
まず、夫婦関係を破綻させた当事者、いわゆる有責配偶者から離婚請求がされた場合、夫婦関係が破綻していること自体は認められたとしても、その破綻の状態を招いた当事者からの離婚請求を行うことは、自ら夫婦関係を壊しておいて、「破綻してしまったから夫婦関係は終了である。」と主張するのはあまりに不合理であると考えられます。
夫婦は、お互いに扶助しなければならない義務を負うのに、自分から夫婦関係を壊しておいて、それを理由に夫婦関係の終了(離婚)という目的を達成できるというのは妥当ではありません。
また、壊された他方の配偶者も、自分に全く責任がないにもかかわらず、相手の都合で離婚が成立してしまうと不憫であり、この「被害者」ともいえる配偶者を保護する必要があります。
このような道徳的、倫理的な考え方から、有責配偶者の離婚は、裁判において認められるケースが少ないといわれています。
有責配偶者による離婚の実情
実際には、有責配偶者の側が、離婚原因となる不貞行為などの問題行為を行ったことが直接の離婚原因となるとしても、そのような段階にまでいたった夫婦には、他にも多くの問題があることが実際には多いといえます。
例えば、不貞行為を行った側の配偶者が悪いのだけれども、もはや夫婦関係は冷え切っており、「破綻」と評価される程度かはともかくとして仲が非常に悪く、もう修復は困難であるとお互いに考えていた、という場合です。
しかし、このような冷え切った夫婦であっても、先に決定的な離婚原因を作った配偶者は、有責配偶者となり、裁判上の離婚を勝ち取ることが困難となるわけです。
実際には、有責配偶者の方が、「裁判になると勝てないから。」という考えから多くの譲歩をすることによって、話し合いによって協議離婚が成立するケースも少なくありません。
有責配偶者からの離婚を認めた判例
以上の通り、従来から、倫理的、道徳的な観点より、離婚原因を自ら作って夫婦関係を破壊した有責配偶者からの離婚請求は、裁判で離婚を勝ち取ることが困難であるとされてきました。
しかし、どのような場合であっても有責配偶者からの離婚を一切認めないという判断をするとすれば、これはこれで逆に不合理となるケースもあります。そのため、判例では、一定の要件の下に、有責配偶者からの離婚を一部認める方向にシフトしています。
有責配偶者からの離婚請求を認めた判例で示されている、離婚が認められるための要素は、次の3つです。
- 別居期間が長期に及ぶこと
- 未成熟子が存在しないこと
- 他方の配偶者の苛酷な状態や、社会正義に反する状態とならないこと
この3つの要素を総合的に判断して、離婚請求を認めるかどうかを決定するというのが、現在の裁判例で多くとられている考え方です。そのため、3つがすべて完璧に揃っている必要まではなく、あくまでもそれぞれの事情を総合考慮して決定することになります。
「別居期間が長期に及ぶこと」について
まず、長期間の別居が継続していれば、有責配偶者であったとしても、もはやこれ以上夫婦関係を継続しておく意味がありませんから、離婚が認められる可能性があることとなります。
この点は、有責配偶者からの離婚請求の場合に必要となる別居期間は、先程説明した倫理的、道徳的な理由から、通常の離婚請求の場合より長めの別居期間が必要と判断される傾向にあります。
長期間の別居期間の目安として、おおむね10年以上程度ということが目安としていわれています。10年~15年程度の長期の別居期間が継続している場合には、有責配偶者からの離婚請求であったとしても、長期の別居期間があることを理由に離婚を勝ち取ることが可能なケースも少なくないということです。
これに対し、配偶者の双方の年齢がまだ若い場合には、まだ夫婦関係をやり直せる可能性が高いのではないかと判断され、別居期間がより長期のものが必要となる傾向にあります。
「未成熟子が存在しないこと」について
未成熟子とは、親からの監護を受けなければ生活できない子をいいます。このように、未成熟子は、「自分で生活できるかどうか」によって判断されるのであって、必ずしも年齢によってきっちりと区分されている定義ではありません。
夫婦の間に未成熟子がいる場合には、離婚を認めてしまうと、その子の福祉に悪影響を及ぼす可能性があります。しかも、それが自分から夫婦関係を破綻させた有責配偶者による離婚であるとすれば、到底倫理的、道徳的に許されるものではないのではないかという価値判断が働きます。
そのため、夫婦の間に未成熟子が存在する場合には、有責配偶者からの離婚請求はまず認められないという厳しい判断となるのです。
「苛酷な状態、正義に反する状態とならないこと」について
苛酷な状態、正義に反する状態とならないことという要件については、以上の2つ要件以外で、有責配偶者による離婚を認めるべきでない事情を総合的に含むものとなります。
ここでは、特に、残された配偶者の経済的な事情が、重要視されるといわれています。有責配偶者からの離婚請求を認めてしまったことにより、責任のない配偶者が経済的に困窮するとなれば、自ら夫婦関係を破綻させておいて、相手方を困窮に追いやることは妥当ではないといえますから、「社会的正義に反する」という評価になり、離婚を勝ち取ることが困難となるでしょう。
例えば、裁判例では、有責配偶者からの離婚請求を認めてしまうと今後の養育費の支払いが止まってしまう可能性が高いと考えられるケースで、有責配偶者からの離婚請求を認めなかった裁判例があります。
有責配偶者であるけれども離婚を勝ち取りたい場合には、少なくとも、相手方の配偶者が、経済的に困窮しないような十分な保証を約束する必要があるでしょう。
有責配偶者の離婚に関する3要件の判断の方法
有責配偶者からの離婚請求があった場合、最初に注目するのは、別居期間です。弁護士が離婚の相談を受けた場合にも、有責配偶者である場合に最初に事情聴取するのは、やはり「別居期間がどれだけ継続しているか。」という点です。
別居期間が15年を超える程度であれば、他に離婚を妨げるような「苛酷な状況」「不正義」が無い限り、有責配偶者であっても離婚が認められる可能性が高まると予想できます。
他方で、別居期間が10年に満たない場合には、他に離婚を適切とする事情を収集しなければならず、相手方にも離婚原因があるといった事情を立証できる可能性を探ることとなります。
裁判例でも、別居期間10年が一定の目安とされているようであり、その他の事情を加味して、必要となる別居期間が10年から増減していくといったように判断基準を考えていけばよいでしょう。
双方有責の場合の離婚請求は?
以上の通り、夫婦関係の破綻を自ら起こした配偶者は、自分で作った離婚原因を理由に離婚をすることはできません。有責配偶者の場合、裁判で離婚を勝ち取るためには、既に説明した3要件を軸とした一定の要件を満たさなければならず、ハードルは高いと考えてください。
これに対し、「双方有責」すなわち、夫婦のいずれもが、離婚原因を有している場合にはどのように判断されるのでしょうか。例えば、夫婦双方が浮気をしている場合、いわゆる「ダブル不倫」のケースや、妻は外で浮気をしていて夫は暴力をふるうといった場合が想定されます。
夫婦の双方が有責配偶者の場合の判断方法は、まずは離婚請求を行った方の配偶者が有責配偶者である場合の基準を検討し、そこから、他方の配偶者の責任を加味して、離婚を勝ち取ることのできるためのハードルを下げていくという考え方になります。
そのため、裁判において離婚を勝ち取れるかどうかは、相手方の配偶者の責任の程度が重要となってきます。
離婚請求を受けた相手方配偶者の責任が非常に重い場合には、有責配偶者からの離婚請求が認められやすくなる一方で、相手方配偶者の有責行為が軽微なものであれば、有責配偶者からの離婚請求は認められ辛くなります。
また、有責配偶者からの離婚請求と同様に、未成熟子が存在するかどうか、離婚を認めることによって不正義の状態にならないかといった要件も、離婚を勝ち取ることができるかの結果に影響します。
まとめ
以上の通り、夫婦関係を破綻させる離婚原因をみずから作った有責配偶者から離婚請求をする場合には、裁判では離婚が認められない可能性が高いということを十分念頭において進めていかなければなりません。
相手方が協議離婚に応じてくれる場合には、裁判になると不利であることから、大きな譲歩を要求されるケースも少なくありません。
「不倫をしてしまったけど離婚をしたい。」という方は、相手方に離婚請求を叩きつける前に、離婚問題に強い弁護士のアドバイスを求めるべきでしょう。
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