万引きが重大な犯罪であることは、広く周知されるようになりました。
皆さんの中にも、店舗の壁に「万引きは犯罪です。見つけ次第、すぐに通報します。」というような張り紙を目にしたことのある方もいるのではないでしょうか。
しかし、なかなか万引きの発生件数が減少する気配はありません。軽い気持ちで行いがちな犯罪であり、悪質な犯罪であると認識せずについ万引きを行ってしまうケースが後を足しません。
ある日突然、警察から連絡があり、あなたの家族や恋人が万引きで逮捕されたことを知ったら、どうしますか。あるいは、あなた自身がほんの出来心から万引きを行ってしまったところ、見つかり、警察に通報され逮捕され、取調べを受けた結果、起訴されてしまう可能性もゼロではありません。
万引きを行ってしまった場合、今後、裁判で言渡されることになる刑は一体どのようなものになるのでしょうか。
万引きで起訴された場合に、少しでも刑を軽くする、執行猶予判決の獲得を目指す、という努力を惜しまないのが万引き事案の刑事弁護の鉄則です。
今回は、万引き事案において、執行猶予になるケースだけでなく、裁判官が判決の言渡しをする場合、被告人のどのような事情を、刑を決定する際の考慮要素としているのか、解説してまいります。
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もし、あなたの家族、友人、親族が、刑事事件で逮捕、勾留などの身柄拘束を受けた場合には、刑事事件の得意な弁護士にすぐ相談をしましょう。刑事弁護を開始するタイミングが早ければ早いほど、身柄拘束が短期で終了し、示談成立、起訴猶予などの、有利な結果を獲得できる確率が上がります。
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このページの目次
万引きとは?
万引きとは、法的にいうと「窃盗罪」の一種です。
窃盗罪とは、刑法第235条に定められている犯罪で、他人の財物を盗む犯罪のことを指します。
あなたや、あなたの家族・恋人が万引きをした場合には、この窃盗罪によって罪を問われることになります。
刑法に定められた「犯罪行為」であり、「泥棒」と同じ窃盗罪という種類のものです。まずは、万引きが犯罪であり、許されない行為であることを、しっかり認識しておいてください。
窃盗罪の刑罰は重い?
窃盗罪の刑罰は、刑法上、「10年以下の懲役」又は「50万円以下の罰金」と定められています。
したがって、仮に、あなたやあなたの大事な家族が万引きで逮捕されて裁判になり、実刑判決が出て執行猶予が付かない場合には、刑務所で一定期間の間、懲役に服するか、あるいは50万円以下の罰金を支払う必要が出てくるのです。
万引きは窃盗罪ですから、このように、刑法のルールにしたがって、重く処罰されることとなります。
執行猶予になるケースもある
万引きを行い窃盗罪となった場合、罰金で済まされない場合には、「懲役」という刑罰が科されることとなります。
懲役となった場合、執行猶予を勝ち取ることができなければ、刑務所に行くこととなってしまいます。
そこで、次に、万引きを犯してしまった犯人が、執行猶予となるのはどのようなケースか、という点について、刑事弁護人の立場から解説していきます。
執行猶予とは?
裁判で懲役刑が言い渡された場合でも、必ずしも刑務所に行かないといけないわけではありません。
一度は耳にしたことがある方も少なくないと思いますが、「執行猶予」という制度があります。
執行猶予とは、裁判官が被告人に対し、懲役刑を選択した場合に、その刑をすぐに科すことはせずに、一定期間、刑の執行を猶予する制度のことをいいます。
万引きを行ってしまい窃盗罪として処罰される場合であっても、執行猶予がつけば、執行猶予中は社会で自由に過ごすことができます。
しかし、執行猶予中に更に罪を犯して罰金に処せられるなどすると、執行猶予が取り消され、言い渡しどおりの刑が執行されることになります。
すなわち、執行猶予中に、万引きだけでなくその他何らかの犯罪行為を行ってしまえば、執行猶予が取消され、その犯罪の刑罰とともに、前に行った万引きの刑罰の執行も受けてしまうのです。
反対に、執行猶予期間中に被告人が更に罪を犯して刑に処せられるようなことがなければ、判決で言い渡された懲役刑が執行されることはありません。
このように、執行猶予期間中に問題を起こさずに真面目な生活を送ることができれば、刑務所に行かずにすむのです。
万引きにおける執行猶予
万引き犯罪では、初犯の場合には、裁判になって有罪判決が出たとしても、執行猶予がつくことが実務上はよくあります。
したがって、仮に、あなたやあなたの家族が初めて万引きにより逮捕起訴され、窃盗罪で有罪となっても、執行猶予が付いて刑務所に行かなくて済む可能性は十分あるのです。
もっとも、これはあくまで一般論ですから、必ず執行猶予が付くわけではありません。
例えば、初犯の万引きであっても、次のような場合には執行猶予がつかない悪質な犯罪であると判断されるおそれがあり、注意が必要です。
- ☛ 万引きしたものが高価なものである。
- ☛ 逮捕されるまで何度も万引きを行っていた。
- ☛ 動機が卑劣であり、酌量の余地がない。
このような悪質な万引きのケースでは、直ちに実刑となり、執行猶予が付かないことがありますので、注意が必要です。
万引きに対する量刑の判断材料
万引き犯罪を犯してしまった原因には、各々様々な事情があります。
万引きに対する処罰を裁判所が決める際、さまざまな考慮要素から、その刑事罰は重くなったり軽くなったりします。
そこで、万引きのケースで、裁判で言渡される量刑の幅にはどのような事情が影響してくるのか、順番に見ていきましょう。
大きな2要素、「被害金額」と「回数」
裁判所によって、実際に犯人に科せられる刑罰が決められる際には、法律に定められた刑罰の枠の中で、被告人の諸事情に基づいて裁判所が裁量により判断して決定します。
万引きは、刑法第235条の窃盗罪にあたることから、刑法で定められた刑罰の枠は、「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」の範囲となります。
では、量刑にはどのような事情が大きな影響を与えるのでしょう。
刑事弁護専門弁護士の観点から実務的にいえば、量刑に大きく影響を与えるのは、次の2つが特に大きな事情となります。
- ☛ 被害金額
- ☛ 万引きをした回数
つまり、たとえ一度の万引きであっても高額な物を盗んだ場合には執行猶予が付くことなく直ちに実刑ということもありえます。
他方、一度の被害金額は少額であっても数えきれないほど多数の万引きを行っている場合にも、同様に実刑の可能性が高くなります。
したがって、「たかが万引き」と甘くみてはならず、二度とやらないと深く反省をし、適切な刑事弁護を行うべきであることは十分ご理解いただけたのではないでしょうか。
万引きの動機
「万引きの被害金額」「万引きの回数」の2つの大きな要素の次に、判断材料として重要視される要素として挙げられるのが、万引きを行った「動機」です。
万引きを行った動機を判断する際には、万引きを行った本人のこれまでの生活を分析することが必要です。
具体的には以下のような点を参考にします。
- ☛ 窃盗を行なうようになった原因(ギャンブル依存症の有無等)
- ☛ 家族との関係性
- ☛ 生活に困っている場合にはその原因
- ☛ 収入はどのように得ているのか
- ☛ 収入や仕事がないのであればその理由
- ☛ 生活を支援してくれる親族や施設の存在の有無
- ☛ 今後の居住場所の有無
- ☛ 認知症や精神病等の既往症
万引き事件の裁判においては、これらの点が参考にされます。
生活に困窮し、致し方なく万引きしてしまったような場合とは異なり、ストレス発散や遊び感覚、あるいは暇つぶしで万引きしたような場合には、量刑が重くなる傾向にあります。
中には、万引きを行うことが習慣となってしまっている病気(クレプトマニア)であることが大きな動機となっているケースもあり、この場合には、刑事弁護も、治療を中心とした特殊なものとなります。
示談が成立しているかどうか
万引きの刑罰を決めるにあたって、裁判官が重視する事情の1つに、示談が成立しているかどうか、という点があります。
捜査段階に示談が成立すれば、その時点で逮捕、勾留から身柄を釈放され、不起訴や罰金といったより軽い処分で終わる可能性もあります。
そのため、捜査段階の初期には、示談を得られるよう、弁護士の協力を得ながら、被害者となる店舗に対して十分に反省を示すのがよいでしょう。
ただ、店舗によっては、会社の方針として万引きの示談には応じないことと決めているケースも多く、その場合には、どれほど反省を示し、どれほどメリットを提示して交渉したとしても示談を成立させることは困難です。
特に、大型の店舗やチェーン店ほど、万引きの示談にはなかなか応じてもらいづらい傾向にあります。
万引きに計画性があるか
万引き事件が計画的に行われていた場合、その分だけ万引き犯罪の悪質性が強いと判断されることとなり、刑罰が重くなる傾向にあります。
ただ、突発的、衝動的な犯行であれば罪は軽いのかというと、そういうわけではありませんから、無思慮な万引き行為は絶対にやめなければなりません。
反省、謝罪があるか
万引きを行ってしまった犯人が、反省と謝罪を行うことは当然のことです。
より深く考え、「なぜ万引きが悪いことであるのか。」を十分に理解した上で、心からの反省と謝罪を示さなければなりません。
反省、謝罪を示すことによって、刑事罰はより軽く判断され、逆に、反省と謝罪がなく、「万引きは悪いことだ。」という理解が不十分であると評価されれば、刑事罰は重く判断されます。
謝罪と反省をしっかり示す方法としては、弁護士の協力のもと、謝罪文、反省文などを作成し、被害者となる店舗に持参、提出する方法が第一です。
家族が監督できる環境を整えているか
万引きを行ってしまった犯人の刑事弁護をする場合、反省、謝罪は当然ではありますが、一度犯罪を行ってしまった人が「もう二度とやりません。」と言っても、それだけでは再犯の可能性は低くないといわざるをえません。
そこで、家族などが責任をもって監督できることを証明することによって、再犯の可能性が低い環境を整備します。
これによって、裁判官の決める刑事罰は、より低いものとなります。
同種前科がある場合、さらに厳しく処罰される
次に、同種前科がある場合について、詳しく解説してまいります。
過去にも万引きで処罰されたことがある場合には、万引きの同種前科があり、常習的犯行である、と判断され、量刑が重くなる可能性があります。
そこで、刑罰の重さに影響する事情の1つとして、同種前科がある場合にどのような刑事弁護を考えるべきであるかについて、解説していきます。
前科の万引きの態様
同種前科である、前に犯した犯罪の万引きの態様が、今回逮捕起訴された万引きと同じである場合、被告人は万引きを常習的に行っている、と認定されやすくなります。
常習的に万引きをしていると判断されると、執行猶予が付かない可能性があるなど、不利な処罰が下るおそれが高まります。
常習性が認定されてしまうと、被告人が反省していない、と裁判官により判断されることはもちろんのこと、犯罪行為に習熟している、と認定されてしまうので、より注意が必要となります。
前科での被害弁償の有無
今回起訴されている万引き事件に関して、被害弁償をすることはもちろん重要なのですが、実は前に犯した万引き事件について、被害弁償が行われているのか、という点も極めて重要となります。
通常、初犯で、他に量刑を重くするような事情が被告人にない場合、被害弁償が行われなくても、執行猶予が付くことが少なくありません。
したがって、とくに初犯の万引き事案の場合、被害弁償が行われず放置されていることが少なくないのです。
しかし、同種の万引き事件で2度目3度目と逮捕起訴されますと、執行猶予判決を得るため、あるいは少しでも刑を軽くするために、被害弁償をしようと努力するケースがあるのです。
このような場合、「今回だけ被害弁償の体裁をとったのだろう。」と評価する裁判所もありますので、頭に入れておくとよいでしょう。
常習的に万引きを繰り返すと、より重い罪に!
万引きなどの窃盗罪(その未遂も含む。)を、過去10年間の間に3回以上行う6月の懲役以上の刑の執行を受けたか、執行の免除を得ていた場合には、より重く処罰されます。
これを、法律の専門用語では「常習累犯窃盗」といい、盗犯等防止法(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律)にルールが決められています。
万引きを犯し、これが「常習累犯窃盗」にあたる場合には、「3年以上の懲役」という、通常の万引きよりも重い処罰となります。
まとめ
万引き犯罪で起訴されてしまった場合、少しでも量刑を軽くする、実刑ではなく執行猶予判決を得るためには、早期に弁護士に依頼することが必要です。
万が一あなたやご家族が万引きを犯してしまった場合、十分に反省するとともにスピーディな刑事弁護が必要となります。
今回挙げたような量刑に関わる考慮要素を、被告人にとっての有利な事情とするため、刑事弁護を得意とする弁護士に依頼し、早期解決を目指しましょう。
刑事事件はスピーディな対応が重要です!
もし、あなたの家族、友人、親族が、刑事事件で逮捕、勾留などの身柄拘束を受けた場合には、刑事事件の得意な弁護士にすぐ相談をしましょう。刑事弁護を開始するタイミングが早ければ早いほど、身柄拘束が短期で終了し、示談成立、起訴猶予などの、有利な結果を獲得できる確率が上がります。
日本の刑事司法では、起訴された場合の有罪率は99.9%と言われており、捜査、起訴と進んだ場合には、手遅れとなりかねません。前科が付き、その後の人生を崩壊させないために、早期の刑事弁護が重要です。